賃貸管理と分譲マンション管理、未経験者はどちらを選ぶべきか
- 賃貸管理と分譲マンション管理は相手にする人が違い、賃貸はオーナー、分譲は管理組合(住民の合議体)が主な対応先になります。
- 国土交通省の公表では分譲マンションのストック数は令和4年末時点で約694.3万戸に達し、管理需要は今後も一定量残ると見込まれています。
- 未経験者は求人数の多さと業務範囲の広さから、まず賃貸管理を経由して分譲マンション管理へ移る2段階のキャリアが体感的に無理が少ないと考えています。
「賃貸と分譲、どっちが向いてます?」と面談の場で聞かれることが、この半年でも何度かありました。
不動産管理という言葉でひとくくりに検索している方ほど、実は賃貸管理と分譲マンション管理が別の仕事だということに気づいていません。結論から言うと、僕の体感値では未経験の方はまず賃貸管理から入るほうが無理が少ないと考えています。ただしこれは絶対の順序ではなく、皆さんの適性や生活のリズムによって答えが変わる話でもあります。今日はこの2つの違いを、仕事内容・求人の入りやすさ・未経届者への向き不向きという3つの軸で、できるだけ具体的に整理していきます。
0.(結論)未経験者は「賃貸管理→分譲マンション管理」の2段階が無理が少ない
先に結論だけお伝えします。賃貸管理と分譲マンション管理は、扱う不動産の種類こそ似ていますが、相手にする人がまったく違います。賃貸管理はオーナー(大家さん)1名、または少人数の投資家グループが相手です。分譲マンション管理は、区分所有者全員で構成される管理組合という合議体が相手になります。この違いが、求められるスキルの種類も、未経験者が最初にぶつかる壁の種類も変えてしまいます。
個人的には、未経験からキャリアを始める場合、まず賃貸管理で「不動産管理の基礎体力」をつけ、その後に分譲マンション管理へ移る、あるいは両方を経験できる会社を選ぶ、という2段階の考え方が最も無理が少ないと考えています。理由は次の章から順番にお話ししていきます。
1. 賃貸管理と分譲マンション管理、そもそも何が違うのか
賃貸管理は、オーナーが所有する賃貸住宅(アパート・マンションの1棟丸ごとや、区分所有の賃貸部屋)を、入居者募集から契約更新、退去時の原状回復確認、家賃の集金代行までを含めて管理する仕事です。対応先は基本的にオーナー本人であり、意思決定者が明確なのが特徴です。
一方、分譲マンション管理は、すでに複数の区分所有者(住民)がいるマンション全体の共用部分(エントランス・エレベーター・外壁・給排水設備など)の維持管理を、管理組合という住民の合議体に代わって担う仕事です。総会や理事会の運営支援、長期修繕計画の提案、日常清掃や設備点検の手配などが主な業務になります。意思決定は「組合の総会で決議する」という形をとるため、賃貸管理よりも合意形成のプロセスが一段階多く挟まります。
国土交通省の公表データによれば、分譲マンションのストック数は令和4年末時点で全国に約694.3万戸あるとされています。この数字が示すのは、分譲マンション管理という仕事の絶対量が今後もそう簡単には縮小しない、ということです。また総務省統計局の「住宅・土地統計調査」(平成30年)では、民営借家(賃貸住宅)のストックは全国で約1,530万戸とされており、賃貸管理側の市場もそれ以上に大きい規模で存在しています。どちらの市場も消えてなくなる話ではなく、むしろ管理の担い手の高齢化という別の問題を抱えている、という点は共通しています。
2. 仕事内容の違い:オーナー対応と管理組合対応
賃貸管理の現場で求められるのは、オーナー1名との関係構築力です。オーナーごとに「早く決めてほしい人」「じっくり相談したい人」「投資として割り切っている人」「思い入れが強い人」など個性の幅が大きく、その1名にどう寄り添うかがすべてを決めます。良い意味でも悪い意味でも、対応の「型」を作りにくい仕事だと僕は感じています。
分譲マンション管理の現場では、相手が1名ではなく管理組合という集合体になります。理事会には毎年入れ替わる理事の方々がおり、総会では住民全体の合意を取らなければ大きな決定(修繕積立金の変更や大規模修繕の実施など)が動きません。ここで求められるのは、多数の異なる意見を持つ人たちに向けて、同じ説明を繰り返し、時間をかけて合意を形成していく力です。実際に転職相談を受けた方の中には、「賃貸管理では即断即決のオーナー対応に疲れていたが、分譲マンション管理に移ってからは、時間をかけて合意を作るプロセスのほうが自分の性格に合っていた」という声を複合的にいただいたことがあります。逆のパターン、つまり合議体の調整に疲れて賃貸管理のほうが性に合っていたという声も同じくらいの頻度で聞きます。どちらが優れているという話ではなく、求められる対人スキルの質が違うのだと理解しておくと、選ぶときの軸がぶれにくくなると思います。
3. 求人・待遇の違いと未経験者へのハードル(体感値)
ここからは僕の独自ガイドとしての体感値になりますので、目安値として読んでいただければと思います。賃貸管理の求人は、分譲マンション管理の求人よりも数として多く見かける印象があります。理由の一つは、賃貸住宅管理業法によって一定規模以上の管理業者に管理業務の適正化と国土交通省への登録が求められるようになった結果、業務管理者を含めた管理体制の強化が業界全体で進み、人手を必要とする会社が増えていることだと考えています。この制度変化については別の記事でも詳しく触れていますので、興味のある方はそちらもご覧ください。
分譲マンション管理の求人は、フロント(管理組合担当)と現場常駐(管理員)で採用の間口が大きく変わります。フロント職は、複数のマンションを担当しながら理事会・総会運営を支援する仕事で、未経験からの採用はやや狭い印象があります。一方で現場常駐の管理員職は、マンション管理員の引退ラッシュを背景に、未経験・年齢を問わず採用のハードルが下がってきている領域だと僕は見ています。つまり分譲マンション管理という枠の中でも「フロントか、管理員か」で未経験者への間口の広さがまったく違うということです。
待遇面については、賃貸管理・分譲マンション管理いずれも、会社の規模や担当エリアによって差が大きく、業界全体としての目安を一律に語るのは難しいというのが正直な感覚です。ただ、未経験からの入口という観点だけで見れば、賃貸管理の一般事務・アシスタント職か、分譲マンション管理の管理員職のいずれかが、比較的間口が広いというのが今の実感です。
4. どちらが向いているか:3つのパターンで考える
皆さんの適性を、僕は大きく3つのパターンに分けて考えています。
1つ目は「対人関係は少人数で深く、が得意なタイプ」です。このタイプは、オーナー1名との関係を丁寧に積み上げていく賃貸管理のほうが力を発揮しやすいと感じています。2つ目は「大人数の合意形成や、決まった手順を粘り強く進めるのが得意なタイプ」です。このタイプは分譲マンション管理のフロント職のほうが向いている可能性が高いと考えています。総会資料の作成や理事会での説明を、同じ内容でも相手を変えて繰り返す粘り強さが活きる場面が多いからです。3つ目は「まずは現場で不動産管理という仕事そのものに慣れたいタイプ」です。このタイプには、分譲マンション管理員の仕事が、いきなり複雑な合意形成に踏み込まずに現場の実務感覚を身につけられる入口として合っていると僕は考えています。
比喩を挙げるなら、賃貸管理はオーナーという「一人の監督」と一緒にチームを作っていく仕事、分譲マンション管理のフロント職は住民全員という「大勢の株主」に向けて説明会を重ねる仕事、というイメージに近いと個人的には感じています。どちらが優れているという話ではなく、皆さんがどちらの舞台のほうが疲れずに立っていられるか、という視点で考えていただくのが一番だと思います。
5. 今日からできる3つのアクション(実務手順)とよくある失敗
ここまでの整理を踏まえて、今日から実際にできることを3つのステップに分けてお伝えします。
1つ目は、応募を検討している会社が「賃貸管理専門」「分譲マンション管理専門」「両方を扱う総合系」のどれに当たるかを、求人票の事業内容欄で確認することです。総合系の会社であれば、入社後に賃貸から分譲へ、あるいはその逆へ、社内異動でスライドできる可能性があります。未経験のうちは、この総合系の会社を優先的に候補に入れておくと、後から選び直せる余地が残ります。2つ目は、面接の場で「配属はフロント職か現場常駐かどちらを想定していますか」と具体的に質問することです。求人票の職種名だけでは実際の業務内容が読み取りにくいことが多く、この一問で入社後のギャップをかなり減らせると僕は考えています。3つ目は、賃貸住宅管理業法や国土交通省への登録制度など、業界の構造変化を最低限おさえた上で面接に臨むことです。制度の名前だけでも知っている応募者は、面接官から見て「業界を調べてきた人」として好印象を持たれやすい、というのが僕の体感です。
ここでよくある失敗にも触れておきます。1つ目の失敗は、求人票の「不動産管理」という言葉だけで応募し、入社後に想定していた仕事とまったく違う対応先(オーナーだと思っていたら管理組合だった、逆のパターンも同様)に当たって早期に戸惑うケースです。対処法は、前述のとおり面接で配属先を具体的に聞くことです。2つ目の失敗は、賃貸管理と分譲マンション管理のどちらも同じ「不動産の管理」だと思い込み、対人スキルの準備を一つのイメージだけで進めてしまうことです。対処法は、この記事の2章で触れた「少人数深く型」か「大人数合意形成型」かという軸を、自分の得意・不得意に当てはめて事前に整理しておくことです。3つ目の失敗は、待遇面の目安を鵜呑みにして会社間の比較をせずに決めてしまうことです。同じ「賃貸管理」でも会社によって幅が大きいため、複数社の求人票や面談を比較する手間を惜しまないことが結果的に近道になると考えています。
6.(結論)迷ったら、まず賃貸管理か管理員職から入るのが無理が少ない
ここまで整理してきたとおり、賃貸管理と分譲マンション管理は、同じ「不動産管理」という言葉でくくられていても、相手にする人も求められるスキルの質もはっきり違います。個人的な結論としては、未経験の方はまず賃貸管理、あるいは分譲マンション管理の中でも管理員職という、間口が比較的広い領域から入り、そこで不動産管理という仕事の基礎的な感覚を身につけたうえで、自分の適性に応じて分譲マンション管理のフロント職へ移っていく、という2段階のキャリアが無理が少ないと考えています。もちろんこれは僕個人の体感に基づく見立てであり、皆さんの状況によって最適な入口は変わります。皆さんいかがでしたでしょうか。自分がどちらの舞台に立ちたいか、少しでもイメージが持てたなら幸いです。では今日もがんばりましょう。
よくある質問
Q. 賃貸管理と分譲マンション管理、未経験ならどちらから始めるべきですか
僕の体感値では、まず賃貸管理から入るのが無理が少ないと考えています。賃貸管理は求人数が相対的に多く、業務範囲もオーナー対応・入居者対応・原状回復確認など幅広いため、不動産管理の基礎体力がつきやすいからです。分譲マンション管理は管理組合という合議体を相手にする分、合意形成のスキルが先に求められる場面があり、業界未経験だと最初の数か月で戸惑いやすい印象があります。もちろん適性次第で分譲から入って早く伸びる方もいるため、絶対の順序ではありません。
Q. 分譲マンション管理の仕事は賃貸管理よりも難しいですか
難しさの種類が違う、というのが実態に近いと考えています。分譲マンション管理は管理組合という複数の意思決定者を相手にするため、説明・調整・合意形成の負荷が高くなりやすい一方、契約関係自体はオーナー1名相手の賃貸管理より整理されている面もあります。逆に賃貸管理はオーナーごとに考え方が異なり、対応の型を作りにくい難しさがあります。どちらが上位というより、求められる力の質が違うと捉えるほうが選び方を誤りにくいと考えています。
Q. 賃貸管理から分譲マンション管理へ後から異動・転職することはできますか
体感としては可能で、実際にそうしたキャリアを歩む方は一定数いると考えています。賃貸管理で身につけたクレーム対応や修繕手配の基礎は分譲マンション管理でもそのまま活きる場面が多く、管理会社の中には賃貸部門と分譲部門を両方持ち、社内異動の形でスライドできる会社もあります。未経験からいきなり分譲マンション管理を志望するより、賃貸管理を経由してから移る2段階のルートのほうが、書類選考・面接の通過率という意味でも無理が少ないというのが僕の個人的な見立てです。
IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。