マンション管理員の引退ラッシュ。求人が増えている本当の理由
- マンション管理員は65歳以上の比率が高く、高経年マンションの増加と歩調を合わせて引退が進んでいると国土交通省の統計から読み取れる。
- 賃貸住宅管理業法は2021年6月に全面施行され、管理業界全体で体制整備の機運が高まったことが求人増加の追い風になっている。
- 未経験者向け求人は引き継ぎ期間など3つの見極めポイントを面接で確認することで、応募後の失敗リスクを下げられる。
「うちの管理員さん、もう83歳になるんです。次の人が見つかるまで、辞めるに辞められないと言っていて」——先日、都内のあるマンション管理組合の理事長さんから、そんな相談を受けました。
結論から言うと、マンション管理員の引退ラッシュはこの数年で一気に表面化した構造問題であり、それは裏を返せば、未経験からこの業界に入りたい人にとって過去にないほど入口が広がっているということでもあると僕は考えています。国土交通省が公表している分譲マンションストック数の推移を見ると、築40年を超える高経年マンションの戸数はこの10年でおよそ2倍に増えており(出典:国土交通省「分譲マンションストック数の推移」)、建物の高齢化と管理員の高齢化が同時に進んでいるのが今の管理業界の実像です。
0. 数字で見る「引退ラッシュ」の正体
管理員という仕事は、もともと定年後の再就職先として選ばれてきた歴史があります。総務省統計局「労働力調査」の年齢階級別就業者数を見ても、建物サービス業に分類される職種は65歳以上の就業者比率が全産業平均より明らかに高い水準にあると言われており、これは僕が現場のフロント担当者から聞く肌感覚とも一致します。求人票の年齢欄に「60歳以上歓迎」「経験不問・シニア活躍中」と書かれているのは、決して美談としてではなく、それ以外の年代がほとんど応募してこなかった歴史の裏返しでもあります。
そして今、その世代がまとまって退職期を迎えています。1つの管理会社が抱える管理員が数百人規模だとすると、その1〜2割が同時期に定年・引退のタイミングを迎えるというのは、決して珍しい話ではありません。これが「引退ラッシュ」と呼ばれる現象の正体です。
加えて、業界団体が公表する動向調査でも、管理員の担い手不足は繰り返し指摘されており、これは僕が日々の相談業務で受け取る感触とも重なります。単発の統計だけでなく、複数の情報源が同じ方向を指しているという点は、この問題が一過性のものではないことを示していると考えています。
1. なぜ管理員は高齢化したのか——三つの構造要因
1-1 建物そのものが高齢化している
マンションは古くなるほど管理の手間が増えます。設備の不具合対応、住民間のトラブル、清掃範囲の拡大——築40年を超える物件では、管理員に求められる業務量そのものが増加傾向にあります。つまり「担い手は減っているのに、1棟あたりの負担は増えている」というねじれが同時に起きているわけです。
1-2 採用のミスマッチが放置されてきた
管理員の仕事は、長らく「定年後の穏やかな仕事」というイメージで語られてきました。実際には清掃・巡回・住民対応・簡易な設備点検など体力も気配りも要る仕事で、僕の体感値では、若手や現役世代からの応募は決して多くありませんでした。求人媒体も高齢者向けの紙媒体が中心で、20代・30代・40代の目に触れる機会自体が少なかったことも、若返りが進まなかった一因だと考えています。
1-3 登録義務化という追い風
2021年6月に全面施行された賃貸住宅管理業法により、一定規模以上の賃貸管理業者には登録が義務化され、業務管理者の配置も求められるようになりました。これは賃貸管理側の話ではありますが、同じ管理業界全体に「体制を整えないと事業が続けられない」という空気を広げるきっかけになったと僕は見ています。マンション管理会社側でも、管理員体制の見直しや若手・現役世代の採用強化に動く会社が増えてきたのは、この数年の傾向として実感しています。
1-4 地方と都市部で状況は同じか
地方と都市部でこの傾向に差はあるのかとよく聞かれますが、僕の体感では、地方の方がむしろ深刻です。都市部では若手の転職希望者が一定数流入する一方、地方では応募自体が少なく、1人の管理員が定年を迎えると後任探しに数ヶ月かかることも珍しくありません。地域を問わず、この問題からは逃げられないというのが実感です。
2. 求人はどれくらい増えているのか。比較で見る実態
「求人が増えている」という言葉だけでは実感が湧きにくいと思うので、僕が普段、求人票を見ていて感じる変化を比較の形で整理してみます。あくまで体感値としての整理であることを前提にご覧ください。
| 項目 | 2015年前後の求人傾向 | 2024年前後の求人傾向 |
|---|---|---|
| 年齢条件 | 60歳以上歓迎が中心 | 40〜50代の未経験可求人が増加 |
| 募集媒体 | シニア向け紙媒体・ハローワーク中心 | Web求人媒体・転職エージェント経由が増加 |
| 雇用形態 | パート・嘱託中心 | 正社員登用ありの求人が増加傾向 |
| 研修体制 | 先輩管理員のOJT任せ | 本部研修・マニュアル整備を明記する会社が増加 |
特に僕が印象的だと感じるのは、これまで「経験者優遇」だった求人が「未経験者歓迎」に切り替わっているケースが目立つようになったことです。理由は単純で、経験者の母数そのものが減っているからです。母集合が縮小した以上、企業側は未経験者を採用して育てる方針に切り替えざるを得ない。これが今、皆さんの目に触れる求人票の変化として表れています。
加えて、同じ地域・同じ規模の求人でも、掲載されている給与レンジに月2〜3万円ほどの差が出てきているのも最近の傾向です。人手不足が深刻な会社ほど、条件面で他社と差別化せざるを得なくなっているのだと僕は見ています。
3. 未経験者にとってのチャンスと、見落としがちな注意点
ここまで読むと「今がチャンスだ」と単純に受け取りたくなると思いますが、僕はそこに一つだけ留保をつけたいと考えています。求人が増えている背景には、担い手不足という会社側の事情があるということです。つまり、条件面だけを見て飛びつくと、引き継ぎが不十分なまま一人で現場を任される、というケースに当たることがあります。
実際に僕が相談を受けた方の中には、入社初日から「前任の管理員さんはもう来ていません」と言われ、マニュアルもないまま巡回ルートを手探りで覚えることになった、という話がありました。これは特殊な例ではなく、引退が急に決まった現場ではよく起こることだと僕は捉えています。だからこそ、面接の段階で「引き継ぎ期間はどれくらい確保されているか」を具体的に確認することが、未経験者にとっては何より大事な自衛策になります。
この方はその後、本部に相談して2週間分の同行研修を追加してもらい、なんとか業務を覚えることができたと話してくれました。「最初に条件を確認しておけばよかった」という言葉が、僕にはとても印象に残っています。
4. 求人選びで失敗しないための見極めポイント
僕が未経験からの応募を考えている方によくお伝えしているのは、次の3点です。
- 引き継ぎ期間が「1週間未満」の求人は、前任者が急な事情で退職した可能性が高いため、業務内容を面接で細かく確認する。
- 本部の巡回サポート体制(困ったときに電話で相談できる担当者がいるか)が明記されているかを確認する。
- 管理員1人あたりが担当する棟数・戸数を聞き、業界の目安(体感値としては1人1棟が基本形)から大きく外れていないかを確認する。
特に3点目は見落とされがちですが、1人で複数棟を掛け持ちする求人は、それだけ会社側の人手不足が深刻であるサインでもあります。悪い求人だと決めつける必要はありませんが、実態を面接でしっかり聞いておくべき項目だと僕は考えています。
5. どんな人がこの波に向いているか
管理員という仕事は、体力・コミュニケーション・事務処理という3つの軸で見ることができます。体力面では、清掃や巡回があるため一定の運動量は必要ですが、重機を扱うような激しい労働ではありません。コミュニケーション面では、住民からの相談や苦情に丁寧に向き合える人が向いています。事務処理面では、簡単な報告書作成やパソコン入力ができると、フロント担当者とのやり取りがスムーズになり、評価にもつながりやすいというのが僕の体感です。
実際に、事務職から管理員に転職して5年目を迎えたという方から話を聞いたことがありますが、「住民の顔と名前を覚えて挨拶を返してもらえるようになったときが一番やりがいを感じる瞬間だ」と話していました。資格の有無より、こうした対人の丁寧さが評価される仕事なのだと改めて感じたエピソードです。
(結論)
マンション管理員の引退ラッシュは、建物の高経年化・採用のミスマッチ・法制度の変化という三つの構造要因が重なって表面化したものであり、一時的なブームではなく今後も続く流れだと僕は見ています。だからこそ、未経験者にとってはチャンスであると同時に、引き継ぎ体制やサポート体制を自分の目で確かめる姿勢が欠かせません。皆さんいかがでしたでしょうか。では今日もがんばりましょう。
よくある質問
Q. マンション管理員は未経験でもなれますか?
なれます。むしろ現在は未経験者歓迎の求人が増えている状況です。経験者の母数自体が高齢化で減っているため、管理会社側が未経験者を採用して育てる方針に切り替えているのが実態です。ただし引き継ぎ期間が短い求人もあるため、面接時にサポート体制を確認することをおすすめします。
Q. なぜ今マンション管理員の求人が増えているのですか?
建物の高経年化・採用のミスマッチ・賃貸住宅管理業法の全面施行という3つの構造要因が重なったためです。国土交通省の統計でも築40年超のマンション戸数はこの10年でおよそ2倍に増えており、管理需要の増加と管理員の高齢引退が同時進行していることが背景にあります。
Q. 管理員の仕事に向いている人の特徴は?
体力・コミュニケーション・事務処理の3軸のうち、どれか一つを強みとして語れる人であれば十分に向いています。特に住民対応で丁寧さを発揮できる人は評価されやすく、資格や経験の有無より人柄が重視される珍しい職種だと僕は考えています。
IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。