マンション管理士と管理業務主任者の違い。転職に効くのはどちらか
- 管理業務主任者は事務所ごとに管理組合30件につき1人以上の設置義務がある国家資格で、未経験者の転職では優先度が高いと僕は考えています。
- マンション管理士試験の合格率は目安で8〜9%程度、管理業務主任者は目安で20%前後とされ、出題範囲は重なる部分が多いです。
- フロント業務を目指すなら管理業務主任者を先に取り、実務経験を積んだ後にマンション管理士で相談役としての幅を広げる順番が体感的に自然です。
「両方受けようと思っているんですが、順番ってありますか」と、異業種のセールス職から分譲マンション管理会社への転職を考えていた30代の方に聞かれたことがあります。
結論から言うと、僕の体感では、未経験からフロント業務を目指すなら先に取るべきは管理業務主任者です。マンション管理士を取らなくていいという話ではなく、順番の話です。この二つは名前が似ているだけで、法律上の位置づけも、現場での使われ方も、かなり違います。順番を間違えたことで転職活動が遠回りになった人も僕は何人か見てきました。
0. 結論:フロント業務を目指すなら、まず管理業務主任者
マンション管理士は国が定める名称独占資格で、管理組合への助言・相談を担う立場として想定されています。設置義務はありません。一方、管理業務主任者はマンションの管理の適正化の推進に関する法律(マンション管理適正化法)に基づき、管理会社の事務所ごとに設置が義務づけられている実務資格です。求人票に「資格保有者歓迎」と書かれる頻度でも、僕が見てきた範囲では管理業務主任者の方が高い印象があります。理由は単純で、この資格がないと事業所そのものの運営が法律上成立しないからです。
1. 二つの資格の立ち位置——「相談役」と「実務資格」
マンション管理士は2001年に施行されたマンション管理適正化法に基づく国家資格で、試験は公益財団法人マンション管理センターが実施しています。管理組合の運営、大規模修繕工事の合意形成、規約改正の相談など、管理組合側に立って助言する役割が想定された資格です。ただしマンション管理士には設置義務がありません。管理会社の事務所に何人置かなければならない、という決まりが存在しないため、資格を持っていなくても管理会社の業務自体は成立します。採用担当が履歴書でこの資格を見たとき「知識はあるんだな」という評価にはなりやすいものの、「すぐ配置できる人材」という即戦力の証明には直結しにくい面があります。
管理業務主任者も同じマンション管理適正化法に基づく国家資格ですが、試験の実施団体は一般社団法人マンション管理業協会です。こちらは設置義務が明確に定められています。マンション管理業者は事務所ごとに、その事務所が管理事務の委託を受けている管理組合の数を30で除した数(1未満のときは1人)以上の専任の管理業務主任者を置かなければなりません(マンション管理適正化法施行規則に基づく基準)。管理組合を30件受託している事務所なら最低1人、90件受託していれば最低3人の管理業務主任者が必要になる計算です。フロント担当は一人で複数の管理組合を受け持つのが一般的なので、この資格を持つ人が現場に一定数いなければ事業そのものが回らない構造になっています。中途採用の求人で管理業務主任者が歓迎されやすいのは、まさにこの設置基準があるからだと僕は理解しています。
2. 数字で比較する——合格率と学習時間の目安
数字で見ると違いがより分かりやすくなります。合格率はどちらも公表資料をもとにした目安値ですが、近年の傾向として次のような差があります。
| 項目 | マンション管理士 | 管理業務主任者 |
|---|---|---|
| 実施団体 | マンション管理センター | マンション管理業協会 |
| 合格率(目安・近年の傾向) | 8〜9%程度 | 20%前後 |
| 設置義務 | なし(名称独占資格) | あり(事務所ごとに管理組合30件で1人以上) |
| 主な役割 | 管理組合への助言・相談 | 重要事項説明・管理事務報告など実務 |
| 学習時間の目安(資格学校が示す一般的な数値) | 300時間前後 | 200時間前後 |
合格率だけを見るとマンション管理士の方が難しく見えますが、出題範囲はかなり重なっています。管理業務主任者を先に取っておくと、マンション管理士の学習が半分ほど終わっている感覚になる、というのは受験経験者から実際によく聞く感想です。冒頭で相談を受けた方も、まず管理業務主任者を受験して半年後に合格し、その勢いでマンション管理士の学習に進んだと話してくれました。学習時間の目安を単純に足し算すると500時間ほどになりますが、重複部分を考えると実際にかかる総学習時間はそれより短くなる印象です。
3. よくある失敗と対処——順番を間違えた二つのケース
僕がこれまで見てきた中で一番多い失敗は、合格率の低さだけを見て「難しいマンション管理士から取った方が箔がつく」と考え、そちらを先に受験してしまうパターンです。悪いことではありませんが、転職活動のタイミングと噛み合わないことがあります。ある30代前半の方は、異業種からの転職を決めた時点でマンション管理士の学習を始めました。試験は例年11月下旬、結果発表は翌年1月です。ちょうど転職活動が本格化する時期に「受験予定」としか書けず、面接で「実務にすぐ配置できる資格を持っていますか」と聞かれても答えに困ったと話していました。管理業務主任者は設置義務のある資格なので「取得すれば即戦力として数えられる」という説明が面接でそのまま通ります。同じ時期に受験するなら、まず管理業務主任者を優先し、合格通知を待つ間にマンション管理士の学習を並行して進める、という順番が対処法として現実的です。
もう一つ僕が見た失敗は、実務経験ゼロで異業種から入った方が、両方の試験を同じ年に受けようとして、どちらも中途半端な仕上がりで終わったケースです。学習範囲が重なるとはいえ、完全に同じではありません。実務経験がゼロに近い場合、まず管理業務主任者で「重要事項説明」「管理事務報告」といった実務の言語を体で覚えることを優先し、片方に絞って合格を取りに行く方が結果的に早いというのが僕の見立てです。一方、営業経験や折衝経験がある人は、管理業務主任者の学習と並行して、早い段階からマンション管理士の学習にも手を伸ばしても遅れを取りにくい印象があります。管理組合の合意形成という「対人力」の部分は、これまでの経験を土台にできるからです。冒頭の相談者も前職でクレーム対応の経験があり、管理業務主任者合格後の学習速度が速かったと振り返っていました。
4. 未経験者向け学習スケジュールの立て方
実務未経験からの転職を前提にすると、僕が勧める学習スケジュールはおおむね半年計画です。試験は例年11月下旬に実施されるため、6月頃から管理業務主任者の学習を始め、5ヶ月ほどで200時間を積む配分がひとつの目安になります。平日1時間、休日3時間程度を確保できれば、無理なく届く範囲だというのが体感値です。学習の中身は「区分所有法」「マンション管理適正化法」「建物の維持保全」の三本柱が中心で、この三本柱はマンション管理士の出題範囲とも重なる部分が多いので、後でマンション管理士に進むときの土台になります。
管理業務主任者に合格したら、その合格実績をそのまま応募書類に書ける状態で転職活動を進めるのが現実的です。フロント職の求人票には「管理業務主任者資格保有者歓迎」という記載が多く、合格発表が1月であれば、そこから春の採用シーズンに向けて動き出せます。マンション管理士は、入社後にフロント業務の実務を一定期間経験してから、翌年以降の受験に切り替えるのがおすすめです。実務を経験したうえで学習すると、テキストに書かれている合意形成の場面が具体的に想像できるようになるため、学習効率自体が上がるという声を現場の人からよく聞きます。
5. 資格取得後、年収とキャリアはどう動くか
資格そのものが自動的に年収を上げてくれるわけではありません。ただ、管理業務主任者を持っていると、資格手当がつく会社が一定数あり、また設置義務を満たせる人材として現場配置の判断で優先されやすくなります。実際の手当額は月5千円から2万円程度と会社によって幅があり、求人票の待遇欄で確認するのが現実的な進め方です。
マンション管理士については、資格そのものへの直接手当は管理業務主任者に比べて少ない印象ですが、大規模修繕やコンサルティング系の部署に関わる際の評価材料になりやすく、フロント業務からステップアップする際の材料の一つになります。ここは賃貸住宅管理業法の話と比較すると分かりやすくなります。2021年に登録が義務化された賃貸住宅管理業法では、賃貸住宅の管理受託件数が200件以上の事業者に業務管理者の設置が義務づけられました。分譲マンション側の管理業務主任者は、この賃貸側の業務管理者に近い立ち位置の実務資格だと考えると理解しやすいと思います。両方とも「事業者が一定数置かないと事業が回らない資格」であり、二つを両方持っていると、管理組合側の視点と管理会社側の視点の両方を語れる人材として、面接での説明がしやすくなるというのが実感です。
(結論)
マンション管理士と管理業務主任者は、名前は似ていますが、設置義務の有無という一点で立ち位置が大きく異なります。未経験からフロント業務を目指すなら、まず現場で必ず必要とされる管理業務主任者を取り、実務経験を積んだ後にマンション管理士で相談役としての幅を広げる。この順番が、僕の体感では転職市場でも評価されやすい進み方です。
皆さんいかがでしたでしょうか。資格の名前だけで判断せず、その資格が「誰に何を義務づけているか」まで見て選ぶと、転職活動の軸がぶれにくくなると思います。では今日もがんばりましょう。
よくある質問
Q. マンション管理士と管理業務主任者はどちらが難しいですか?
合格率の目安で見ると、マンション管理士が8〜9%程度、管理業務主任者が20%前後とされており、単純な合格率ではマンション管理士の方が高いハードルだと言われています。ただし出題範囲は重なる部分が多いため、片方の学習が他方の理解にも活きます。難しさだけで選ぶより、資格が担う役割の違いで選ぶ方が転職活動には実用的だと僕は考えています。
Q. 未経験者はどちらを先に取るべきですか?
分譲マンション管理会社でフロント業務を目指すなら、事務所への設置義務があり実務で使う頻度も高い管理業務主任者を先に取る方が、僕の体感では現実的です。マンション管理士は名称独占資格で設置義務がなく、実務経験を積んだ後のステップアップとして取りに行く人が多い印象です。
Q. 両方の資格を持つと年収は上がりますか?
資格そのものが直接年収を引き上げるわけではなく、資格手当の対象になったり、設置義務を満たせる人材として現場配置で優先されたりすることで、結果的に待遇に反映されるケースが多いというのが僕の実感です。手当額は会社によって月5千円から2万円程度と幅があるため、求人票の待遇欄で確認するのが実務的だと思います。
IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。